ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

【第3回】TRADING CARD 原色日本法図鑑 日本法0001/独占禁止法

 

弁護士法人BridgeRootsブリッジルーツ

弁護士  大 塚  陽 介

 

※本記事は亜州ビジネス20127月30日第441号に掲載されたものです。

 

解説:

経済活動の憲法  独禁法は、“経済活動の憲法”などと呼ばれている。憲法とは「強大な国家から無力な人民たちの“人間として必須の権利=基本的人権”を守るもの」なのだが、独禁法は、要するに「経済社会で闊歩する巨大企業から他の弱い企業を守るための法律」なので、そう呼ばれているわけである。巨大企業が市場を独占する社会は市場競争が失われた不毛の世界なので、フェアな競争ルールを作って“企業生態系”の多様性を保とうというわけだ。実にECOな法律である。

 

独禁法の骨格  独禁法は、①“汚いやり方”の封殺と②デカ過ぎ企業の誕生抑制により、フェアな市場競争を確保せんとする。そのために、③フェアな競争のレフェリーとも言うべき「公正取引委員会」(公取)を設置する。こういうカラクリで、独禁法は、ざっくり言うと、①禁止行為、②企業結合規制、③公取の組織・手続きの設定、の3つのパーツで構成されている。あたかも、頭・胸・腹で構成される“昆虫”みたいなものである、のか?

 

①禁止行為  独禁法により禁止されるアンフェアな行為は、これまた3つに分類される。いずれも有名だが、私的独占(トラスト/コンツェルン)、不当な取引制限(カルテル)、不公正な取引方法。語弊を恐れず簡単に言っちゃうが、競馬を例にしてみると、「レースの全部の馬を買い占める」のが私的独占。これで馬主は必ず栄誉ある優勝を手にすることができる。次に、「各馬主が話し合って、各レース毎に順番に優勝するよう八百長するとか、本当に競い合うと大変だから『お互いゆっくりテキト~に走ろうね』って約束し合うとか」が不当な取引制限。これだと、馬主側は費用を注ぎ込んで必死に速い馬を育てなくても、ラクして優勝できる。最後に、「ライバルの馬にそっと毒を盛るとか、自分の馬に禁断の薬物を使うとか」が不公正な取引方法。正々堂々とした正攻法は捨てて、卑怯な技で優勝を狙うわけである。

 

不当な取引制限  さて、私的独占は「②企業結合規制」のところで説明するとして、まずは不当な取引制限について。典型例としては企業間の価格協定がある。例えば、液晶パネル製造販売の大手企業が裏で話し合って、一緒に価格を吊り上げる行為である。こんなので◯野屋と松◯とす◯家とな◯卯が牛丼(並)を一斉に一杯千円に吊り上げたら・・・、想像しただけで財布が寒くなる。「でも、それって弱い企業にとっては、適正価格で一人勝ちするチャンスなんじゃないの?」というツッコミが聞こえてきそうだが、独禁法は弱小企業の保護が至高なんじゃなくてフェアな市場競争を維持して国民の利益を守ることが第一目標なので、脇に置いとこう。

 なお、談合とかカルテルをやってしまった企業さんは、バレる前に公取に“自首”するとペナルティが軽くなる「リーニエンシー(課徴金減免制度)」という脅威の技があるので、要チェックや。

 

不公正な取引方法  それから、不公正な取引方法だが、これにはいろんな種類がある。毒攻撃とか、銃撃とか、落とし穴とか、ドーピングとか(?)。詳しくは、「一般指定」と呼ばれる公取の告示(名称:不公正な取引方法)を参照いただきたい。例えば、不当廉売(ダンピング)なんていうのがあって、「体力のある企業が、しばらくの間、原価割れの激安販売を行い、体力のない弱小企業を駆逐する」というもの。一瞬、「国民にとってありがたくね?」などと思ってしまうが、弱小企業が駆逐された後に巨大企業の価格吊り上げが始まるというわけだから、良くないのだろう。それから、企業法務をやってるとよく目にするのが「優越的地位の濫用」。有名デパートなんかが、納入業者に「今度、店舗の改装作業するから、おまえんとこの従業員を何名か無償奉仕で手伝わさせろ。さもないと今後は取引してやんないかもよぉ。」なんて圧力をかける行為などである。

他の類型も挙げてみると、共同の取引拒絶、差別対価、差別取扱い、不当高価購入、ぎまん的顧客誘引、抱き合わせ販売、拘束条件付取引、等々。思い当たる企業さんは、即チェックなさい。ただ、独禁法は「どこまでやると違法なのか」が分かりにくく、弁護士泣かせの法律でもある(ノーアクションレターという上級技があるが詳細はいずれ)。

 

②企業結合規制  これは主に私的独占に関連する規制である。私的独占状態を実現する手早い方法は、ライバル企業を買収(M&A)しちまうことだろう。そこで、独禁法は、市場シェアの高い企業同士のM&Aとか役員兼任とかを規制する。ディールサイズのデカイM&Aをやろうとするなら、公取への事前の届出が必要だったりするので注意。でも、国際的競争力ある日本企業を育成するには巨大企業の誕生をむしろ歓迎すべきであって・・・、実はこの企業結合規制は「もうちょっと緩くしようよ」という流れにあるように思う。

 

③公取の組織・手続き  公取は市場競争でのアンフェアなやり方をガツンと規制する強い権限を持ってるので、そんな強大な国家権力をテキトーに振るわれてしまったら民間企業のほうが参ってしまう。そこで、独禁法は、公取の組織とか権限とか手続きとかを法定している。なお、公取は強い調査権限を持ち、排除措置命令(状況改善の強制)、課徴金納付命令(反則金のようなもの。巨額。)、刑事告発などもやってのける。とっても元気な行政機関くんである。

 

ハンドリング  「なんかフェアな市場競争じゃなくね?」とか「価格とか商品・サービスの質以外で勝とうとしてるような・・・」といった直感があったら、独禁法違反を疑おう。「誰もやってないスゴいビジネス手法をひらめいた!」と思ったときは、けっこう独禁法違反だったりしてドキンとする(大気ごと氷結)。他方、他企業からそういうことをやられたら、すぐにお近くの公取の事務所へ駆け込もう。地方毎にあったりする。

 独禁法とは、そういう法律である。

 

本稿は、あくまでも一般的な法解釈の動向のご説明にとどまるものですので、いかなる意味においても、法的見解を表明し、あるいは法的助言や鑑定等のサービスをご提供するものではありません。