ブリッジルーツの日本・中国・韓国見聞録

【第2回】世界で一番近い国「韓国」
 

弁護士法人BridgeRootsブリッジルーツ

弁護士  李   武 哲


※本記事は亜州ビジネス2012716日第431号に掲載されたものです。


1.はじめに

 皆様はじめまして。本連載の韓国分野を担当します弁護士法人Bridge Rootsブリッジルーツの弁護士 李武哲です。

 さて、皆様は「韓国」と聞いて、どんなイメージが浮かぶでしょうか?

定番のキムチ・焼肉等のグルメや最先端の化粧品・エステ等の美容、はたまた韓流ドラマやK-POPをはじめとする芸能・・・、回答は十人十色だと思います。海を隔てたお隣の国、という地理的条件だけではなく、人的・文化的・経済的な交流が密接に行われていることが、かような身近なイメージにつながっているのでしょう。

さて、我々弁護士の商売道具である法律の分野においても、韓国は非常に近い国といえます。

 韓国の法律は、日本による植民地支配の時代にそのベースが形成されており、その内容は日本の法律と驚くほど似通っています。また、法令の解釈や裁判所の判例についても同様です。法制度に関して、日本と韓国はあたかも「双子」のような関係にあるといっても過言ではないでしょう。

 このように、物理的距離だけではなく、法制度に関しても一番近い国である、ということをまずは皆様にご理解いただきたく、本稿のサブタイトルに「世界で一番近い国」と掲げさせていただきました。

 と、韓国と日本の類似点を紹介するだけでは、本連載は大変つまらないものとなってしまいますが、ご安心ください。

 「双子」として生まれた日韓両国の法制度は、その後大きく成長し、殊に先端分野において多様な個性を持つに至っております。

そこで、本連載では、そっくりなようでいて異なる、日韓の相違点を紹介し、日本の皆様が陥りがちな落とし穴について解説を加えていきたいと考えています。

 すでに紙幅に余裕がなくなってまいりましたが、今回は、日本の皆様が韓国の食堂で必ず目にされている、とあるものについてご紹介させて頂きます。

 

2.日韓の外食産業における原産地表示について

 韓国の食堂で、壁に掛けられたメニューの横に、「○○産」という原産地表示があることにお気づきの方は多いと思います。

2000年代初頭、米国から火が付いたBSE問題をきっかけに、日韓両国では、ともに米国産牛肉の禁輸措置をおこなうなど、食品の安全性に対する意識が非常な高まりを見せました。

これを受け、日本では、従来食品の製造・加工・流通の場面において課されていた食品の原産地表示義務を外食産業にも拡大する動きが始まりました。しかしながら、日々メニューや仕入先が変動する外食産業において、原産地表示を義務付ける(=違反に対して罰則を科す)には課題が多すぎるとして、平成17年7月28日、農林水産省は単なる指針としての「外食の原産地表示ガイドライン」を策定するにとどめました。

確かに、天候や、収穫高に応じて、食材の仕入先が変更される都度、原産地表示を改定することが、飲食店に過度の負担となることは明らかですから、農林水産省のこのような対応は十分に合理的なものと言えます。(なお、虚偽の原産地表示を行った場合には、「不当景品類及び不当表示防止法」に基づく処罰の対象となりえます。)

一方、韓国では、平成20年7月以後、農産物品質管理法等に基づき、飲食店での原産地表示が義務化され、違反者に対しては罰則が科されることとなりました。(ただし、その対象は、肉類(牛肉・豚肉・鶏肉)、米、キムチに限定されています。)これにより、韓国の飲食店では、看板やメニュー表の改定のために、多額の支出を強いられることとなり、零細業者からの不満の声が多くあがったようですが、結果的に、原産地表示が徹底され、消費者には好意的に受け入れられたようです。

このように、BSE問題に端を発した国民の食品の安全性に対する不安に対し、ともに米国産牛肉の大消費地であった日本と韓国(当時、米国産牛肉の輸入量1位、3位)では、全く異なる処方がなされております。

日韓いずれの方策が適切であるかは皆様のご判断にお任せするとして、このような同一のテーマに対して、異なる法的アプローチがとられた点については興味深いものがあります。

 

3.さいごに

 近年、韓国では日本の外食チェーンが隆盛を誇っております。日韓の食文化は地理的な近接もあって類似点が多く、新たな顧客を求める外食産業にとって、韓国は参入障壁の低い魅力的な市場であると言えましょう。

 本稿では、原産地表示というマニアックなテーマを取り上げましたが、これ以外にも、韓国進出にあたっての留意点は多々ございます。今後の連載でもこのような日韓の相違点について取り上げ、皆様のご参考として頂けると幸いです。

 以 上